「口の中がすぐ乾燥する…」「口が乾いて食べ物が飲み込みにくい…」
このような症状が思い当たる方は、口腔乾燥症(ドライマウス)かもしれません。ドライマウスは様々な要因で唾液の分泌が減り、お口が乾燥してしまう状態です。
ドライマウスをそのままにしていると、ただお口が乾くだけでなく様々な病気を引き起こしたり、長期化して症状が進行すると、痛みを伴い、日常生活に支障をきたす場合もあります。
今回は、口腔乾燥症(ドライマウス)についてご紹介します。
目次
口腔乾燥症(ドライマウス)とは?
ドライマウスは、口腔乾燥症(こうくうかんそうしょう)とも呼ばれ、唾液の分泌量が減り、口の中の乾燥が続く状態です。女性ホルモンが減少すると唾液分泌量も低下することから、特に中高年の女性に多く見られる病気です。口の中の乾燥は、特定の病気や薬の副作用、ストレスなどさまざまな原因で起こります。ドライマウスになると慢性的に唾液の分泌が低下してさまざまな症状が起こります。
唾液の分泌量が半分以下になってしまう
唾液は、健康な成人で一日約1.0~1.5リットル分泌され、口の中を潤しています。しかし、ドライマウスになると、唾液量が半分以下になります。唾液には、消化を助けるだけでなく、細菌感染、虫歯を防ぐなどさまざまな効果があります。食事の時には、味覚を正しく感じて、食べ物を噛んだり飲み込んだりすることを促す役割を果たしますが、唾液が充分でないと毎日の食事にも不便を感じるようになっていきます。ドライマウスが進行すると唾液の清掃効果の低下から、プラーク(歯垢)がつきやすくなり、う蝕(虫歯)の原因にもつながります。さらに舌のひび割れや痛みや口臭の悪化、発音障害などが現れることがあります。
唾液のチカラ
口腔乾燥症の症状とは?
ドライマウスになると、口の中が乾いて、さまざまな症状が起こります。
- 口腔内の乾燥感
- 喉の渇き
- 唾液がネバネバする
- 食べ物が飲み込みにくい
- 味が分かりにくくなる
- 歯垢が付きやすくなり、虫歯や歯周病が増える
- 口臭がきつくなる
- 話しにくくなる
- 舌にヒリヒリとした痛みがある
- 唇の乾燥やひび割れがある・・・など
一時的なものであれば治療の必要はありませんが、長期化して症状が進行すると、痛みを伴い、日常生活に支障をきたす場合もあるため、口の中の乾燥が続く時は早めに診察を受けるようにしましょう。
口腔乾燥症の原因
加齢
唾液は加齢と共に分泌量は減っていくため、年齢が上がるにつれ、口の乾燥がひどくなる場合があります。年齢を重ねると、口や顎(あご)の筋力が低下して萎縮するため、唾液の分泌量が減り、口の中が乾燥しやすくなります。また女性は、更年期になると女性ホルモンの分泌が低下して唾液の分泌量の減少につながります。
ストレス
ストレスや緊張状態のときに優位になる交感神経が働くと、口の中の水分量が減るため、口の中が乾燥し、タンパク質が多くネバネバした状態になります。
口呼吸
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの鼻の病気、または日頃から口呼吸をする癖がある方は、唾液が蒸発しやすいため、口の中の乾燥を招きます。
飲酒や喫煙
日常的な飲酒や喫煙は、唾液の分泌量が減少する要因であり、口の中の乾燥に繋がります。お酒は脱水症状に繋がりやすく、口内も乾きやすくなります。喫煙は、自律神経の働きに作用して唾液の分泌量を減らすことが分かっています。
薬剤の副作用
薬剤の700種類以上に口喝、口内乾燥、唾液分泌減少の副作用があると言われています。「降圧剤」「抗うつ薬」「抗パーキンソン薬」「鎮痛薬」などは唾液の分泌を減少させ、口の乾きを生じる副作用を起こす事が知られています。
全身的な病気の影響
シェーグレン症候群は膠原病の1つで、その主な症状にドライマウスがあります。主に唾液腺や涙腺などの分泌腺に炎症が生じるため涙や唾液が出にくくなり、口が乾燥します。その他にも糖尿病は多量の糖が血液中や尿に移行して尿量が多くなり、体内の水分を減らします。その結果、口の中は脱水症状となり、ドライマウスが引きおこされます。
※膠原病(こうげんびょう)とは、全身の血管や皮膚、筋肉、関節などに炎症が見られる病気の総称
口腔乾燥症の診断
◆問診
原因となるような病気の有無や、他の症状(目の乾き、関節痛など)があるか、使用している薬の種類などを聞きます。
◆視診
虫歯や歯周病の有無、粘膜の異常、入れ歯(義歯)の状態など、口の中の様子を目で見て確認します。
◆唾液測定
唾液がどのくらい分泌されているのかを調べます。主な唾液測定方法には、下記の方法があります。正常の範囲を下回ると口腔乾燥症が疑われます。
●ガムテスト…10分間ガムを嚙み、分泌された唾液を容器に吐き出し計測します。正常値は10mL(10cc)以上となっています。
●サクソンテスト…2分間ガーゼを一定のリズムで咬み、ガーゼに浸み込んだ唾液の重さを計測します。正常値は2g以上です。
●吐唾法…座ったまま安静にして、自然に出てくる唾液を採取して、唾液の量を測定します。正常値は、0.2 mL/分以上、0.3-0.4 mL/分程度です。
※上記の診察・検査を行っても原因が分からない場合は、さらに詳細を調べるための精密検査が必要になることもあります。
口腔乾燥症のおもな治療方法は?
口腔乾燥症には、原因そのものをなくすための治療(原因療法)と、乾燥による症状を抑える治療(対症療法)の二つに分けられます。
◇原因療法(原因そのものを取り除く治療)
- シェーグレン症候群、糖尿病、鼻炎などの基礎疾患の治療
- 処方する薬の変更や減量、中止などを検討
- 禁煙や口呼吸を治すための治療(鼻呼吸テープの使用や矯正治療など)
◇対症療法(乾燥による症状を抑えるための治療)
- 薬による症状の緩和…唾液の分泌を増やす薬(セビメリン塩酸塩水和物、エボザック、ピロカルピン塩酸塩など)や漢方薬(麦門冬湯、白虎加人参湯、温経湯、八味地黄丸など)の内服
- 口の中の保湿ケア…人工唾液や保湿ジェルなどを用いて口の中を保湿する。
- 保湿用マウスピースの使用…就寝時に唾液を蒸発させないための口を閉じて寝られるマウスピースを装着
虫歯や歯周病に要注意!
ドライマウスで口の中が乾燥すると、口腔内のバランスが崩れて細菌の数が増加し、虫歯や歯周病が発生しやすくなります。日頃から歯ブラシや歯間ブラシ、フロスなどを用いて口の中を清潔に保つことが大切です。日頃のケアは非常に大切ですが、歯石(歯垢が石灰化して硬くなったもの)になってしまうとセルフケアでは取り除くことが難しくなってしまいます。日頃のケアと合わせて定期的(3ヶ月に1度を目安)に歯科医院でのプロフェッショナルケアを並行して虫歯や歯周病から大切な歯を守りましょう。
唾液の分泌を促すためにできること
脱水になると唾液の分泌量も減ってしまうため、日頃から水分をこまめにとるようにしましょう。乾燥対策としてガム(キシリトール配合のもの)を噛んだりマスクをするのも有効です。さらに、唾液の分泌を促すには以下のような体操・マッサージも効果的です。
◉舌のストレッチ
舌をできるだけ前に突き出し、上下左右に動かす、または、舌先で円を描くように大きく回す
◉唾液腺マッサージ
唾液の分泌を促すために、唾液腺をやさしくマッサージすることにより、唾液の分泌が促され、潤いのある健康なお口に近づきます。お口の中にある唾液の出やすい3つのポイント【耳下腺(じかせん)・顎下腺(がっかせん)・舌下腺(ぜっかせん)】を口腔内が乾燥している起床時や毎食前にマッサージを行いましょう。
まとめ
ドライマウスは唾液の分泌量が減り、口の中の乾燥が続く状態です。しかし、単なる「口腔内の乾燥」ではなく、放置すると⾷べ物が飲み込みにくくなったり、口臭がきつくなったり、⾍⻭や⻭周病になりやすいなど様々な症状を引き起こします。
長期化して症状が進行すると、痛みを伴い、日常生活に支障をきたす場合もあります。お口の乾燥が気になったり、気になるお口の症状が続いている場合は、早めに診察を受けるようにしましょう。
唾液の分泌を促すために、こまめに水分補給をしたり、ガムを噛んだりマスクをすることも有効です。口腔内が乾燥している起床時や毎食前には、舌のストレッチや唾液腺マッサージを行ってお口の中を潤しましょう。
記事監修 Dr.堀内 啓史
堀内歯科医院
院長 堀内 啓史