タバコと歯周病の関係

    今回は、タバコと歯周病の関係についてのお話です。

    歯周病は日本人の成人の約8割が「歯周病患者」もしくは「予備軍」 と言われている国民病の一つで、歯を失う原因の1位にもなっています。なんと、タバコを吸う人は、吸わない人に比べて歯周病にかかりやすく、歯周病の進行も早く、歯周病治療を行っても治りにくい傾向にあります。どうしてそのような事が起こるのでしょうか?

    まず初めに「歯周病」についておさらいをします。

    歯周病は歯を失う原因1位

    出典:8020推進財団調査「永久歯の抜歯原因調査」2018年一部改変

    歯周病(ししゅうびょう)は、細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患で、歯の周りの歯ぐき(歯肉)や、歯を支える骨(歯槽骨)などが溶けてしまう病気です。重度の歯周病になると歯を支えられなくなり、歯が抜けてしまいます。歯周病の怖さは、自覚症状があまりないまま進行していく点です。実際、歯周病になっていても歯周病にかかっていることに気付いていない、という方も珍しくありません。

    タバコに含まれる三大有害物質

    タバコの煙の中には約4,000種類もの化学物質が含まれているといわれます。その中の約200種類が有害物質で、発がん性物質も含まれています。その中でもニコチン・タール・一酸化炭素は、三大有害物質と言われており口腔内へ様々な影響を及ぼします。

    タバコが及ぼす歯周病への影響

    日本臨床歯周病学会によると、歯周病になるリスクは、1日に10本以上の喫煙では5.4倍、10年以上の喫煙では4.3倍に上昇するとの報告がありますタバコを吸っていると歯肉の腫れや出血が見た目以上に抑えられ、患者さん自身が歯周病に気づきにくくもなります。また、治療を始めても歯肉の治りは悪く、手術を行ったとしても効果の現われ方が非喫煙者よりも低いなど、様々な影響を及ぼします。

    ◉歯周病の発症リスクが増加

    喫煙することにより、歯周組織への血液循環が悪化し、免疫機能が低下します。これによって、細菌感染への抵抗力が低下し、歯周病の発症リスクが増加します。

    ◉歯周病に気付きにくい

    タバコの成分は歯茎の血管を収縮させ、炎症反応を抑制する作用があります。これにより、歯周組織の炎症が鈍化し、初期の歯周病の症状が目立たなくなります。その結果、歯周病が進行しやすくなります。

    ◉歯周病菌が増殖しやすい

    喫煙をすると細菌やウイルスなど体外から侵入してくる異物を攻撃して排除する役割である白血球の働きを抑制してしまうため、歯周病菌が増殖しやすくなります。また、タバコのタールは「ヤニ」という形で歯の表面に残っているので、歯がざらざらしてバイ菌が張り付きやすくなります。

    ◉治療しても治りにくい

    喫煙をすると傷を治そうと組織を作ってくれる細胞(線維芽細胞)の働きまで抑えてしまうので、手術後も治りにくくなります。また、喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病の再発率が高くなることも報告されています。

    受動喫煙にも注意が必要

    喫煙でもうひとつ注意すべきことは、受動喫煙です。受動喫煙とは、タバコを吸っていない方が、周りの喫煙の影響を受けてしまうことです。実は、自分でタバコを吸うよりも受動喫煙の煙を吸い込む方が毒性が強く、歯周病においても受動喫煙の影響が報告されています。もし小さいお子さんやご高齢の方など、免疫力や抵抗力が低い人の周りに喫煙者が要る場合、分離された喫煙室で吸ってもらったり、小さいお子さんやご高齢の方は、喫煙しない部屋のみで過ごすようにするといった配慮が必要です。

    禁煙の効果

    禁煙することで、「歯周病のかかりやすさ」は4割も減り、治療経過も禁煙者は非喫煙者とほとんど差が無くなります。また、歯周組織は数週間で本来備わっていた免疫応答を回復するようになり、歯周治療によって 1 年後には歯ぐきは本来の健康な状態に回復します。歯ぐきの黒ずんだ外観も少しずつ本来の健康な歯ぐきの色に戻ります。禁煙後に歯肉が腫れたり赤くなったりすることがありますが、それはタバコの影響で隠されていた本来の症状が現れたためです。

    進行した歯周病でも禁煙は有効

    歯周病の予防や治療を考える上で、タバコの影響は非常に重要です。ある程度進行した歯周病であっても禁煙は有効であるといわれており、禁煙の実行に遅いことはありません。喫煙している方は、ご自身と大切な人を守るためにも、出来るだけ禁煙を検討することをおすすめします。

    まとめ

    喫煙は歯周病の発症や進行を促進する危険因子(リスクファクター)とされています。タバコの有害物質が口腔内へ悪影響を及すため、歯周病になりやすく治療しても治りにくくなります。また、受動喫煙も同じく歯周病に悪影響を及ぼすことがわかっています。

    禁煙は、簡単なことではないですが、確実に体に良い効果をもたらしてくれます。タバコは百害あって一理なしとも呼ばれるだけあり、歯周病だけでなくあらゆる疾患を引き起こす危険因子です。喫煙している方は、ご自身と大切な人を守るためにも、この機会にぜひ禁煙にチャレンジしてみてください。

    もちろん歯周病予防には、日頃のケアも非常に大切です。以前に「正しい歯周病ケアできてますか?」という記事で紹介していますので、ぜひチェックしてみてください^^

    記事監修 Dr.堀内 啓史
    堀内歯科医院
    院長 堀内 啓史