歯を失う二大原因を知っていますか?

    みなさんは、口の中に全部で何本歯があるか知っていますか?

    口の中の歯は全部で28本、親知らずを含めると32本あります。しかし、高齢になると残っている自分の歯の数は少なくなり、後期高齢者の平均値は約16本で、約3割の人が総入れ歯を使っているといわれています。

    大切な歯を失わないためにも今回は、歯が失われていく原因についてご紹介したいと思います。

    歯の二大喪失原因は「歯周病」と「虫歯」

    下のグラフは、2018年に全国2,345の歯科医院で行われた全国抜歯原因調査結果(円グラフは全年齢、棒グラフは年齢階級別)です。このグラフからも分かるように歯の喪失原因は、歯周病(37%)が一番多く、次いで虫歯(29%)、破折(17%)の順になっています。このうち「破折」の多くは、無髄歯(神経をとった歯)と考えられ、原因は「虫歯由来」とみなすことができ、虫歯由来のものは「破折」を含めると47%となり、抜歯の最大原因となります。

    ※「破折」…歯が割れることをいいます。歯の見える部分が割れることを歯冠破折(しかんはせつ)、歯の歯肉に埋まっていて見えない部分が割れることを歯根破折(しこんはせつ)といいます。

    厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト「歯の喪失の原因」図1引用

    抜歯原因を年齢階級別でみると、「埋伏歯」と「矯正」は若い年代に多く、45歳以上65歳未満では「歯周病」と「破折」「虫歯」はどの年齢層でも多くなっています。「歯周病」に関しては、30歳以降から70歳前後までは、年齢が上がるほどその割合が高くなっています。

    ※「埋伏歯」…歯冠(歯の頭)が正常に生えないで、顎骨内あるいは口腔粘膜下に隠れている歯をいいます。

    ここからは、歯の二大喪失原因である「歯周病」と「虫歯」についてそれぞれご紹介します。

    歯周病

    歯周病は、歯を支える歯肉や骨に炎症や感染が起こる病気で、「沈黙の病気」とも呼ばれており、自覚症状がなく、痛みを伴わずゆっくりと進行し、 歯を支える骨が溶けてしまう病気です。歯周病は、歯を支える組織の感染症で、主にプラークが原因で引き起こされますが、喫煙、糖尿病、ストレス、遺伝的要因、一部の薬剤、不適切な歯の矯正や義歯の使用など、他の要因も影響を及ぼすことがあります。

    歯周病の進行

    歯肉炎:歯肉炎が起こり、歯ぐきが赤く腫れたり、歯磨き時の出血が見られることもあります。この段階では、適切な口内衛生で改善が可能です。

    軽度歯周病:歯肉の炎症が深い部分に進行し、歯と歯肉の間に3〜4㎜の小さな歯周ポケットが形成され、軽度の骨の損失が起こることもあります。基本治療によって、炎症をおさえ、健康な状態に戻すことが可能です。

    中度歯周病:歯肉のポケットがさらに深くなり、5〜7㎜程度になります。歯を支える骨がより損失し、歯が揺れやすくなり、噛み合わせに影響が出ることもあります。積極的な治療と定期的なフォローアップが必要になります。

    重度歯周病:重度の骨の損失と8㎜以上の深い歯周ポケットが特徴です。歯の強い揺れや、最悪の場合、歯の喪失が起こります。外科的な処置や、場合によっては抜歯が必要になることもあります。

    虫歯

    虫歯はプラークに潜む細菌(ミュータンス菌など)が作り出す酸によって、歯が溶かされた状態が虫歯です。細菌は砂糖(糖分)を栄養源とするため、甘い物は虫歯になりやすくなる原因の一つです。虫歯は歯周病と同じように、重症になるまでは自覚症状が少ないため自分では気づきにくいため、定期的な歯科検診で早期発見することが重要です。

    虫歯の進行

    虫歯の進行は「C0」から「C4」までの段階があります。

    C0(初期虫歯):この段階では、歯のエナメル質表面に変色や白斑が見られますが、エナメル質自体はまだ穴が開いていない状態です。歯科医はフッ素塗布などの予防処置を推奨することが多く、この段階での適切なケアにより虫歯の進行を阻止できる可能性があります。

    C1:虫歯はエナメル質を突き抜けていませんが、エナメル質内部に明らかな脱灰(ミネラルの喪失)が起こっています。この段階では、小さな穴が見られることがありますが、まだ象牙質には達していません。充填治療(詰め物やかぶせ物)が必要になることが多いです。

    C2:虫歯がエナメル質を超えて象牙質に達した状態です。この段階で、冷たいものや甘いものに対して敏感になることがあります。虫歯の範囲が広がり、より大きな充填治療が必要になることがあります。

    C3:虫歯が歯髄(歯の神経と血管が含まれる部分)に接近しています。しばしば痛みを経験し、歯の敏感さが増します。大規模な充填治療や、場合によっては根管治療(神経を取る治療)が必要になる可能性があります。

    C4:虫歯が歯髄に到達し、感染や炎症を引き起こしている状態です。強い痛みや腫れを経験することがあります。この段階では通常、根管治療が必要となり、最悪の場合は歯の抜歯が必要になることもあります。

    虫歯と歯周病の主な原因は歯垢(プラーク)

    歯周病も虫歯も主な原因は歯垢(プラーク)です。歯垢は歯に付着している白、または黄白色の粘着性の沈着物で、虫歯菌や歯周病菌をはじめとする微生物の固まりで、非常に多くの細菌とその産生物から構成されています。わずか1mgに数億から数兆もの細菌が潜んでいます。歯垢(プラーク)は、食後8時間程度で生成されると言われているため、プラークを生成させないためにも食後の歯磨きは非常に重要です。そして、丁寧な歯磨きでプラークを毎日除去することが、歯周病や虫歯の予防になによりも大切です。

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    歯の中でどの歯が喪失しやすい?

    一般的に歯は、奥歯から失われる傾向にあります。奥歯は噛む力が最も強くかかるため、虫歯や歯周病によるダメージを受けやすいです。特に、第一大臼歯(永久歯の中で最初に生える奥歯)は早期から多くの咀嚼を担うため、損傷や喪失のリスクが高まります。奥歯が失われると、その前方にある歯は噛み合わせを支持する力が弱いので、より失われやすくなるという悪循環を生んでしまいます。「出っ歯」の多くは、もともと歯並びが悪い場合もありますが、歯周病で奥歯が失われて前歯にかかる負担が大きくなったために、歯が傾いてグラグラの状態になってしまった場合もあります。

    喪失リスクの高い歯

    以下のような歯も喪失のリスクが高いことがわかっています。

    • 虫歯の治療をしていない歯
    • 被せ物をしている歯
    • 部分義歯の針金がかかる歯
    • 歯周疾患が進行している歯

    被せ物をしている歯は、無髄歯(神経をとられた歯)である場合が多く、歯の根の先に病変が残っていたりする場合が多いためです。虫歯が進んで神経をとったり・根の治療(根管治療)が行われるようになると、歯は相当のダメージを受けたことになります。このような状態に至らないようにすることが、歯の喪失を防ぐうえで非常に重要といえます。

    奥歯の喪失が他の歯に与える悪影響

    奥歯が無くなると、上下で接触する歯が少なくなるので、噛む効率が悪くなり、食事を取りにくくなります。歯がなくなった側で噛みにくくなるので、左右平等に噛まなくなり、どちらかの奥歯の負担が大きくなります。もし、他の奥歯が治療していて歯根しか残ってなかったり、歯周病で歯を支える骨が十分にないと、噛む力に耐えきれず、歯が折れてしまったり、歯の揺れが増して、歯の喪失につながります。また、噛み合わせを失った奥歯は噛み合う相手を探して、歯が動いてくるので、噛み合わせが変わってしまうことも問題になります。

    奥歯の噛み合わせが無くなると、前歯に負担がかかる

    奥歯がなくなってしまうと、奥歯で噛むことが難しくなり、今度は前歯を使って食事を取ろうとします。しかし、奥歯の役割はものを噛み砕くのに対して、前歯の役割はものを噛み切ることです。食事を十分に粉砕できず、他の消化器官に負担がかかります。上顎の前歯は下顎の前歯から下から突き上げられるように位置しているため、噛む力が歯根の方向ではなく、歯を揺らす方向にかかります。奥歯が無くなることで、噛む力を十分に支えられず、上の前歯がグラグラ揺れてきます。歯が揺れることで周囲の組織が破壊されると、保存が難しくなります。下の前歯よりも、上の前歯が先になくなってしまうケースが多いです。

    歯は1本でも抜けたままの放置はキケンです

    歯は1本1本に役割があり、それぞれが役割を果たすことでお口全体が機能し、バランスが取れています。奥歯だけでなく、歯が抜けたまま放置すると他の歯や身体に悪影響を引き起こします。

    例えば、抜けた部分に隣接した歯が移動して歯並びが変わって噛み合わせが悪くなるだけでなく、発音しにくくなったり、言葉が不明瞭になったりします。また、歯がないことでしっかりと噛めず咀嚼機能が低下し、食物繊維やビタミン、鉄の摂取量が低下することで栄養不足を招いてしまいます。さらに、左右どちらか片方の奥歯だけないという状態であれば、左右の噛み合わせのバランスが崩れ、徐々に体全体のバランスの崩れへと影響します。その結果、肩こりや頭痛、腰痛に悩まされる場合もあります。この他にも歯が抜けたまま放置することで見た目の印象が変わったり、歯茎が下がってしまうなど・・・起こる悪影響は数多くあります。

    大切な歯を失わないためにも日頃からの丁寧なブラッシングや定期的な検診が重要です。もし、歯が抜けてしまった場合は、たとえ1本でも抜けたまま放置せず、早めに歯科医院を受診しましょう。

    まとめ

    歯が抜けてしまって「1本ぐらい大丈夫かな。」と思っている方もいるかもしれません。しかし、1本でも抜けてしまうと他の歯や体にも悪影響を及ぼしてしまいます。歯を失う主な原因は、歯周病と虫歯です。これらは定期的な歯科検診と毎日の適切なケアによって防ぐことができます。歯を失わないためにも日頃からプラークを出来るだけ残さないように心がけましょう。

    もし、歯が抜けてしまってそのままにしている場合や、既に歯がグラグラしている場合は、早急に歯科医院を受診をすることをおすすめします。早めの対処を行うことで、他の歯への影響も最小限にできる可能性もあります。

    充実した人生を送るためにも、歯の健康は必要不可欠です。今ある歯を大切にして、心も体も元気に過ごしていきましょう。

    記事監修 Dr.堀内 啓史
    堀内歯科医院
    院長 堀内 啓史